Home > Kanon投稿 > Kanon投稿入選作 > 2009年7月25日 第35回

Kanon投稿

 

Kanon投稿入選作 2009年7月25日
第35回 テーマ『命〜雨の季節に』

毎月、WEB投稿作品の中から選んだ作品を、『Kanon』お勧め作品としてHP上で発表いたします。
大賞1名 特選3名 佳作10名には、『Kanon』編集部からステキなプレゼントをご用意しております。
※選者の歌人・朝倉富士子氏より、各作品への選評が寄せられたので、賞とともに発表いたします。

大賞
伽羅の香を袖に畳んで梅雨ごもり (俳句)埼玉県・まー坊
何と風流な…。衣更えはたいてい6月の初旬。秋冬の衣はもう入れ替えです。幾枚かのすてきな自分好みの和服などにしのばせる伽羅の香。秋口までの休養に名香を添える作者の風流は、古き佳き日本人ならではのものかもしれませんね。作者は男性ですから、もしかしたら佳き女(ひと)の佳き風情を詠じたとも思わせます。『梅雨ごもり』の結句の内に向く心情を表現するようで、すてき。雰囲気を詠うことができたら、見事な一人前です。

特選
傘の中二人の秘密の時とまるあじさいだけが優しく揺れて (短歌)大阪府・日野江美
梅雨時には、傘が色んなところで小道具となります。ふたりだけの『秘密の時』をひっそりと止めてくれた傘には、ふたりだけの彩が雨のなかで光る。見ていたのは、あじさいの花だけ…。すこし揺れたのも優しいと感じられるほどの幸せ気分の作者。正直です! 素敵です! 技巧のないぶん、感動が真っ直ぐに伝わる表現です。好感を持ちました。

特選
定年後主夫見習いを拝命し (川柳)神奈川県・八十日目
八十日目さん! 無事に定年を迎えられ、おめでとう。なかなかこうはいかない人が多い昨今です。主夫見習いは昇格かもしれませんよ。結句の『拝命し』に健気な気質が現れて、これからきっと第二の人生を楽しむであろうお姿を想像してしまいました。見習いというのも気負いがなくて、品の良い川柳に留まることが出来たと思いますよ。

特選
梅雨晴れや描くのはやめた雨の色 (俳句)愛知県・西谷清志
結句『雨の色』…いいですねえ。中句『描くのはやめた』に出ている屈折感の面白さ。そして上句『梅雨晴れや』の切れが見事。何ともいえぬ雰囲気が、不思議な彩になって見えます。上手い句です。うっとうしさからの脱出を感じました。

佳作
『無題』 >>『詩』作品を表示する>>『詩』作品を閉じる (詩)栃木県・リコ

『無題』

風は青く、空は澄み、鳥は謳歌している、夏の正午。

手のひらで影をつくっても日差しが眩しすぎて目を細める。
指の間から垣間見えるのは、まるで幻影のよう。

目の前の人たちは確かにそこにいるのに、私には遠すぎて。

ここにいてもいいの?と話しかけたら、ここにいてもいいよ、と
応えてくれる?

“若い”という字は“苦しい”という字に似ています。誰の詩のフレーズだったか…。『目の前の人たちは確かにそこにいるのに、…遠すぎて。』という5行目のこのフレーズは、自己存在の頼りなさに気付いた自分への問いかけ。ここから詩は始まるのです。

佳作
梅雨晴れや幼き座長の旅一座 (俳句)東京都・秋
なんとなんと『幼き座長の旅一座』ですか…。なんとも唐突ですが、この頃あちらこちらでなつかしい旅一座のポスター等に出合い、ホッとします。梅雨晴れに出合ったら、さぞや懐かしく、ほほえましい情景でしょう。佳作。

佳作
旅宿の朝顔ゆうべの雨に濡れどれも夜明けの色に咲きおり (短歌)東京都・久保親二
この一首は下句の『どれも夜明けの色に咲きおり』…という貴方の主観で佳い作品となりました。旅の宿という場所もさることながら、濡れた朝焼けの色はさわやかなだけではない朝のお色気も思わせ、とてもすてきなのです。

佳作
『梅雨』 >>『詩』作品を表示する>>『詩』作品を閉じる (詩)神奈川県・武重路子

『梅雨』

ひいやりとした 湿り気を含んだ空気が
静かに流れ始めると
センサーのように 私の気管は細くなる

海へ還ろう

雨に濡れた体の中で
いつもはしんとしている鰓が目覚める
気づくと水中で魚達と一緒にいる私
呼吸は楽になり
ひとしきり泳ぎ回ると
ひっそり陸に上がる

太古のなごりを強く残している人族かもしれない

いつも気管支拡張剤を飲みながら
夢想する

梅雨の湿りに作者の気管は細くなるという。センサーは、間違いなく湿度を捕らえるのだ。だから、作者は夢想する。『水中で魚達と一緒にいる私』…と。その繊細な体は神からの賜りもの。その賜りものが詩を生むことを忘れないで。

佳作
ラベンダータイムスリップせし香り (俳句)北海道・工藤光吉
いつも休むことなく投稿されておいでの工藤さん。今回の作品は、香りがタイムスリップしたものととらえたところが、たいそう斬新でした。ラベンダーの紫の色は、タイムスリップのイメージに重なり易いのかもしれません。

佳作
新しい傘差したくて幼子は日和坊主を逆さに吊るす (短歌)東京都・林 由実
幼児は思いがけない発想をするもの。作者はその好機を見逃さなかった。『日和坊主を逆さに吊るす』の下句が、活き活きと躍動しておりました。上句もすんなりと詠われて童画の持つ清らかなイメージが拡がった。

佳作
水滴を捕獲している蜘蛛の糸 (川柳)神奈川県・八十日目
蜘蛛にとっては迷惑千万の雨だったでしょうが、川柳作家の目には『捕獲』と映った。そのギャップが面白い。かわいそうなどと感情移入をしないところで、蜘蛛と対峙したセンスの良さに拍手を送ります。

佳作
梅雨明けて竹林の空せまくなり (俳句)岐阜県・ことぶき
“雨後の筍”と言われるように、梅雨が明けてみたら本当に竹の子がするすると伸び上がり、竹の秋はもう終わりです。空は一気に竹の揺れでうるさそうに見えてくる…その情景を『竹林の空せまくなり』として成功しました。

佳作
『虹』 >>『詩』作品を表示する>>『詩』作品を閉じる (詩)滋賀県・永里祐子

『虹』

頂へと続く道のきわ
天からの水を受けて 流れる小川

眼下に光る湖へと続く水の道は
巡る 巡る 恵みを 運ぶ

あっと思う つかの間の時雨
そのあと 光を受けて
天に七色の龍が舞う

巡る 巡る 恵みの水を身に受けて
七色の龍が 優雅に空を渡る

水と水神“龍”の詩。9行の短い詩ですが、時雨のあとの光る七色の龍ととらえたところが佳かった。水は恵みだったが、それは時に荒ぶる神龍でもあるだろう…が、作者はただ喜び、彩ととらえた素直さが詩になった。

佳作
死んだ蝉生きてる蝉より軽いねと子は思いっ切りみずたまり跳ぶ (短歌)徳島県・あいらむ
蝉の姿かたちは同じでも、重さは充分に異なる。でも、子どもはその事実に留まることなく前へと進む。下句がその情景をしっかりと詠み、命盛んな子どもの振り返らない強さを一首にした。これはお手柄の歌でありました。

選者からのコメント

色々な年代の作者群像だと思いました。「日本人は優秀な民族であるなあ…」と。春夏秋冬の目まぐるしいほどの季節の変化が、こんなにも日本人をウィットにも、ひょうきんにもしてくれているのだなあ、と。それぞれの文芸の分野に共通しているのは、心象が無機質ではなく、しめりを帯びることで色んな彩を放ちます。これはとても素晴しい湿度の文化圏に住んでいる。日本人への恩寵であろうと思わずにはいられませんでした。

朝倉富士子●あさくら ふじこ

1935年生まれ。福島県出身。1966年歌と観照社に入社。1972年、歌と観照賞受賞。1988年、岡山巌賞受賞。『歌と観照』選者、『きびたき』選者、山形県米澤新聞『米新歌壇』選者。福島県歌人会常任委員、柴舟会会員、日本歌人クラブ会員。1997年第一歌集『天の鈴』平成8年度日本歌人クラブ東北ブロック優良歌集賞受賞。著書:歌集『天の鈴』『里の木ものがたり』『日待ち月待ち』『愛しきものの詩』他、古典随想集『今も昔も』他。