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Kanon投稿

 

Kanon投稿入選作 2009年10月25日
第38回 テーマ『秋色〜心映して』

毎月、WEB投稿作品の中から選んだ作品を、『Kanon』お勧め作品としてHP上で発表いたします。
大賞1名 特選3名 佳作10名には、『Kanon』編集部からステキなプレゼントをご用意しております。
※選者の歌人・朝倉富士子氏より、各作品への選評が寄せられたので、賞とともに発表いたします。

大賞
乳を飲む吾子の瞳や天高し (俳句)奈良県・小文
『乳を飲む吾子の瞳や…』は『天高し』をうけて、見事な命の讃歌となりました。乳からイメージされる白の清浄感、幼子の瞳のけがれのない透明感、そして秋の清澄な高空の上昇感。すっきりと統一されて立ちあがってくる母子像は、未来への限りない光を感じさせてくれ、晴れやかな一句でした。この頃の世情を思えば、明るさや清潔感のある表現が、どれほど心を和ませてくれることか。小文さんに拍手を送ります。

特選
秋風が午後の校庭でかくれんぼ葉っぱがカラコロ足音鳴らす (短歌)北海道・水恋あかり
なんて愛らしい秋の発見でしょう。18歳の作者の初々しい感性がとらえた葉っぱの足音は、葉枯れゆくものの淋しさではなく、かくれんぼする音のあどけなさ。午後の校庭の一隅から笑い声さえも聞こえてきそうな明るさが、一首から伝わってきます。『からころと』というオノマトペの効果が、かろやかに成功していました。

特選
虫の音にふるさと語るホームレス (川柳)福島県・俄か雨
夕暮れて、コオロギであろうか、虫の音がきこえてきた。「ぼくのふるさとではねぇ」などと、話かけてくれた人はホームレスのひとりであった。公園でか、裏街でか、はたまた飲み屋さんでか、場所はわからないが、故郷にも帰れない人々のつぶやきは身に沁みるものである。川柳のつぶやきは時として時代をえぐる。

特選
コルヴィジェの礼拝堂の窓窓で秋がコトリとまどろんでおり (短歌)佐賀県・古賀由美子
異国での秋、礼拝堂の窓に射す光は、またひとしおの旅情を深めてくれるのであろうか、『秋がコトリとまどろんでおり』の下句が個性的表現であった。『コトリ』とのオノマトペが妙味となり、一首の雰囲気をふくらませた。一首の中に2ヶ所のカタカナがいかにも異国の旅らしい気分につながって効果的。どんな場合でも自分の見方が大切です。

佳作
死と生は同義の如し鮭遡上 (俳句)兵庫県・松下弘美
どきりとしました。鮭遡上の秋です。日本の秋の輝きの中で故郷の川を遡上してゆく鮭の群を、命輝くとか、豊かな秋とかをイメージせず、死と生は表裏一体であることを見透かした哲学の目。『同義の如し』は優しかった。

佳作
『秋の童話』 >>『詩』作品を表示する>>『詩』作品を閉じる (詩)滋賀県・永里祐子

『秋の童話』

夜空という 
季節に彩られた 本のページをめくると

浮かぶ月が  日ごと姿を変えて
今、語りかけてくる 秋の童話

招くように揺れる 萩
世界を その小さな花びらの広がりに閉じ込めた コスモス
わたしも…と願う 吾亦紅

そんな花々の輝きの色を 星も纏い
美しい 物語のページを彩る

空から届く 秋の童話
そこにあるのは 形を変える月と 形を変えない私の心が
響きあい織り成す やさしい物語

この詩は『空から届く、そこにあるのは、形を変える月と形を変えない私の心が響き合い織りなす…ものがたり』が主題ですね。明解な設定が気持ちよいフレーズを生み、わかりやすく澄んだ作風をみせてくれました。

佳作
来年は着せることなき半袖のセーラー服を丁寧に干す (短歌)東京都・林 由実
この一首のよかったところは『丁寧に干す』の結句に作者の思いが集中されていることです。一句より四句までお子さんのことには触れず、一枚の半袖の制服のことだけを淡々と表現して、一層の深い表現となり得ました。

佳作
野分けにも低く気高く赤とんぼ (川柳)東京都・とむちゃん
おどろきました。中句『低く気高く』の表現が、川柳を越えた。古代よりあきつ島といわれてきた日本国の赤トンボへの敬意さえ感じられる一句です。野分けと赤トンボいずれも秋の季語ですが、何とも高潔な気配の一句でした。

佳作
秋濤や涙を足して返りけり (俳句)愛知県・西谷清志
『涙を足して返りけり…』なかなか上手な表現です。岩に打ちつけてしぶく波の飛沫を涙となぞらえたか、自身の涙もその飛沫にまぜて海へ返す…いずれとしても、秋の濤と涙のとり合わせは面白く動的な情景と心象を表す。

佳作
秋の色問われて古文の先生の白すぎる頬と口紅想う (短歌)徳島県・あいらむ
秋の色からの連想が古文の先生の面影へとつながったのが、この作品の面白さでしたね。秋の気配と日本人。古き時代の雅びを説く女の先生の白と紅のお化粧が、秋の風情を個性的に音律にのせ、現代的な一首になりました。

佳作
秋深し妻に哲学語り出す (川柳)静岡県・五貫
秋は人をしてものを思わしむ…のでしょう。五貫さんは奥様に秋の夜長に自分の生きる哲学などを語り出す自分をふと思い、いつもとの違いを感じたのかもしれません。思索する男の美学が川柳の幅を広げるでしょう。

佳作
『桃色小紋』 >>『詩』作品を表示する>>『詩』作品を閉じる (詩)大阪府・吉久 円

『桃色小紋』

祖母が紡いだ絹の糸
母が纏った桃色小紋

私が袖を通すとき
母の願いが和合する

子の無い私が歩くとき
ついて離れぬ絹鳴りは
お蚕さんの哀しみか
それとも母の哀しみか

忍ばせていた幻が
身八つ口からこぼれても
なお愛しげな桃色小紋

今日を限りと静かに終う

つがれゆく女の系譜。桃色の小紋が絹鳴りをさせながら歴史を思わせる。作者は今、その絹鳴りをゆずるべき子を持てず、この系譜への限りない哀惜をもって、この衣をしまう。女性ならではの揺らぎが美しい詩をつむいだ。

佳作
もう少し速度落として歩こうと決めた夕陽に照らされた街 (短歌)大阪府・ひいらぎ
この一首は、切り方が大事でした。『もう少し速度落として歩こうと決めた 夕陽に照らされた街』というふうに、三・四句の句またがりで切って、情調よりは自分の意思決意の歌となり、立ち上ってくるのですね。

佳作
『黄金色の時』 >>『詩』作品を表示する>>『詩』作品を閉じる (詩)神奈川県・武重路子

『黄金色の時』

カラカラと 小石1つ入った
想うことのない心を 体からはずし
手にぶらさげて
夕暮れ
谷(やつ)の奥を歩いていた
ほの暗い中 そこだけ明るい
黄葉した大きな萩に出会った
1枚の葉も落とさずに 金色をまとい
ひっそりと 訪れる人を待っていたのだ

コトリと 石が転げ落ちる
思わずかけ寄り 枝をかき分け
その中へ入り 埋もれる
それを合図のように
ハラハラと 小さくやわらかい葉は散り始め
膝に抱えていた心は黄金色でいっぱいになった

自然の中にまぎれ入り萩の黄葉に出逢った作者。散りかかる黄金色の葉、その中で作者自身が輝き出す…。この感情移入には、人生の秋を思う自分自身の輝きへの願望が靜かに、そして強く意志されており、すてきでした。

選者からのコメント

今回は、短歌部門に佳作が多くありました。古へより培ってきた短歌の音律にふさわしい秋景色がプラスしたのかもしれません。選歌を終えて思ったのは、どの部門においても、知性に裏打ちされながらも、ものの本質へ鋭くも、あたたかく迫る感性の良さが目立ったことでした。これは、現代の文芸の最も好ましいひとつの道のような気がいたします。喜怒哀楽の動きに、深い洞察の光が届いたとき、鮮(あたら)しい文芸の花が開くのだとつくづく思います。

朝倉富士子●あさくら ふじこ

1935年生まれ。福島県出身。1966年歌と観照社に入社。1972年、歌と観照賞受賞。1988年、岡山巌賞受賞。『歌と観照』選者、『きびたき』選者、山形県米澤新聞『米新歌壇』選者。福島県歌人会常任委員、柴舟会会員、日本歌人クラブ会員。1997年第一歌集『天の鈴』平成8年度日本歌人クラブ東北ブロック優良歌集賞受賞。著書:歌集『天の鈴』『里の木ものがたり』『日待ち月待ち』『愛しきものの詩』他、古典随想集『今も昔も』他。